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横浜地方裁判所 昭和51年(ワ)1507号 判決 1982年11月02日

原告

森田恵美子

原告

森田幹郎

右原告両名訴訟代理人

塩田省吾

佐藤泰正

久連山剛正

間辺俊明

被告

上原晃

被告

高陽一

右被告両名訴訟代理人

川原井常雄

土屋南男

堀江永

米川耕一

木村良二

石黒康仁

被告

社会福祉法人

恩賜財団済生会

右代表者理事

山口恒造

右訴訟代理人

藤井暹

西川紀男

橋本正勝

太田真人

主文

一  被告上原晃、同高陽一は、連帯して、(なお、相被告済生会とも連帯して)原告森田恵美子に対し、金六六六万六三三七円及びこれに対する昭和四九年一月一日から右支払済まで年五分の割合による金員を、原告森田幹郎に対し、金六〇万円及びこれに対する前同日から右支払済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告社会福祉法人恩賜財団済生会は、原告森田恵美子に対し、金二七七六万七四五一円及びこれに対する昭和四九年一月一日から右支払済まで年五分の割合による金員を(内金六六六万六三三七円とこれに対する同日から右支払済までの同割合による金員については相被告上告原、同高と連帯して)、原告森田幹郎に対し、金一六〇万円及びこれに対する前同日から右支払済まで年五分の割合による金員を(内金六〇万円とこれに対する同日から右支払済までの同割合による金員については相被告上原、同高と連帯して)それぞれ支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告上原晃、同高陽一との間に生じた分は、これを四分し、その三を原告らの連帯負担とし、その余を右被告両名の連帯負担とし、原告らと被告社会福祉法人恩賜財団済生会との間に生じた分は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を右被告の負担とする。

五  この判決は、右一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告上原晃、同高陽一は、原告森田恵美子(以下、原告恵美子という。)に対し、各自金二六八四万四〇二九円及びこれに対する昭和四九年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告社会福祉法人恩賜財団済生会(以下、被告済生会という。)は、原告恵美子に対し、金四六六〇万二九三七円及びこれに対する昭和四九年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告らは、原告森田幹郎(以下、原告幹郎という。)に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する昭和四九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次の交通事故(以下、本件交通事故という。)が発生した。

(一) 発生日時 昭和四八年一〇月二二日午後四時頃

(二) 発生場所 横浜市鶴見区北寺尾町八〇三番地先交差点(以下本件交差点という。)

(三) 加害車 自家用普通貨物自動車(横浜六う一二〇六号)(以下、被告車という。)

運転者 被告高陽一

(四) 被害車 自転車(以下、原告車という。)

運転者 原告恵美子

(五) 事故態様 本件交差点を直進する被告車とその進行方向左方から右方へ直進する原告車とが衝突し、その衝撃で原告恵美子が路上へ転倒した。

2  原告恵美子の受傷内容、診療経過及び後遺障害

(一) 受傷内容

原告恵美子は、本件交通事故により右鎖骨骨折、右下腿骨複雑骨折、右下腿挫創及び右顆間隆起骨折等の傷害を負つた。

(二) 診療経過

原告恵美子は、次のとおり入、通院して、右傷害につき診療を受けた。

(1) 被告済生会神奈川県病院

入院 昭和四八年一〇月二二日から昭和四九年一月二一日まで九二日間。

(2) 鉄道弘済会東京身体障害者福祉センター

入院 昭和四九年一月二一日から同年四月二五日まで九五日間。

(3) 片山整形外科病院

通院 昭和四九年五月一八日、同月二五日。

(4) 東芝中央病院

通院 昭和四九年六月四日から同年一〇月二六日まで。

通院実日数一〇日。

(5) 国立身体障害センター

通院 昭和四九年六月から昭和五〇年九月まで。

通院実日数一八日。

(6) 北里研究所付属病院

通院 昭和五〇年二月一日。

(7) 日本医科大学第一病院

通院 昭和五〇年五月一六日。

(8) 横浜市大付属病院

通院 昭和五〇年四月九日、同年七月八日、同年九月四日。

入院 昭和五〇年八月四日から同月二三日まで二〇日間。

(9) 横浜船員保険病院

入院 昭和五〇年七月一四日から同月三一日まで一八日間。

(三) 後遺障害

原告恵美子は、併合して自動車損害賠償法施行令別表等級(以下、自賠等級という。)三級((イ)、(ロ)の併合三級)に該当する次の(イ)、(ロ)の後遺障害を蒙つた。

(イ) 右大腿切断。一下肢をひざ関節以上で失つたものとして自賠等級四級五号に該当。

(ロ) 右肩関節機能障害。一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すものとして自賠等級一〇級一〇号に該当。

3  責任原因

(一) 被告上原

被告上原は、本件交通事故当時、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、本件交通事故による後記原告らの損害につき自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条本文による責任がある。

(二) 被告高

(1) 被告高は、本件交通事故当時被告車を被告上原から借受け自己のために運行の用に供していたものであるから、本件交通事故による後記原告らの損害につき自賠法三条本文による責任がある。

(2) また、被告高は、被告車を運転して本件交差点に進入するに際し、右交差点は見通しが悪いのであるから、制限速度(三〇キロメートル毎時)を遵守して交通の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約六〇キロメートルで進行した過失により、本件交通事故を発生させたものであるから、本件交通事故による後記原告らの損害につき民法七〇九条による責任がある。

(三) 被告済生会

(1) 被告済生会神奈川県病院で原告恵美子の前記2の(一)の受傷部位の診療を担当した医師は、原告恵美子の右下腿骨複雑骨折の初期診療をするに際し、右骨折部位がひどく汚染されていたのであるから、ガスえそ菌が患部に侵入し、ガスえそが発症するおそれがあることを予見し、ガスえそが発生することを防止するために、まず汚染部位の完全なデブリドマンを行ない、完全なデブリドマンが行なえない場合には創傷を開放性に処置すべき、医学上の注意義務があるのに、これを怠り、十分なデブリドマンを行なわないままに、しかも、創傷を開放性に処置することなく、ドレーンを挿入して縫合した過失により、原告恵美子にガスえそを発症させ、その生命を危険にさらし、その右大腿の切断を余儀なくさせた。

(2) 被告済生会は、原告恵美子の診療を担当した医師の使用者であるから、右医師の業務の執行の際の(1)に記載した右担当医師の過失によつて生じた後記原告らの損害につき民法七一五条による責任がある。

(3) 被告済生会と原告恵美子との間には、原告恵美子が被告済生会神奈川県病院に入院するに際し、原告恵美子の前記2の(一)の受傷部位につき適切な診療を行うことを内容とする診療契約が成立したが、被告済生会の履行補助者である担当医師において、(1)記載のとおり診療契約上の債務の本旨に従つた履行を怠つたものであるから、被告済生会は右債務不履行によつて生じた後記原告らの損害につき民法四一五条による責任もある。

4  原告恵美子の総損害 合計金五一八九万七二六八円

(一) 入通院関係費 合計金一三〇万五二三六円

(1) 診療費 計金七九万六二三六円

(2) 入院諸雑費 金一三万五〇〇〇円

(3) 入院付添費 金三三万九〇〇〇円

(4) 通院付添費 金三万五〇〇〇円

(二) 義足代 合計金三七八万二〇五六円

(三) 住居改造費 金八〇万円

(四) 後遺障害による逸失利益金二八六四万三九七六円

(五) 慰藉料 合計金一四八六万六〇〇〇円

(六) 弁護士費用 金二五〇万円

5  損害の填補 合計金五二九万四三三一円

6  原告幹郎の損害

慰藉料 金二〇〇万円

7  結論

よつて、

(一) 原告恵美子は、被告上原、同高の各自に対し、本件交通事故に基づく損害賠償として、前記4の(一)ないし(五)の損害合計金四九三九万七二六八円の六割(四割の過失相殺をする)に同4の(六)の金二五〇万円を加え同5の填補額を差し引くと金二六八四万四〇二九円となるから、この金二六八四万四〇二九円及びこれに対する本件交通事故の日の後である昭和四九年一月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、被告済生会に対し、本件医療事故による損害賠償として、前記4の総損害から同5の填補額を控除した金四六六〇万二九三七円及びこれに対する本件医療事故の日の後である前同日から支払済まで前同様年五分の割合による遅延損害金の各支払を求め、

(二) 原告幹郎は、被告ら各自に対し、本件交通事故及び本件医療事故による損害賠償として、請求原因6項の金二〇〇万円及びこれに対する前同日から支払済まで前同様年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告上原、同高の認否<省略>

三  請求原因に対する被告済生会の認否<省略>

四  被告上原、同高の主張

1  過失相殺の抗弁

本件交通事故は、被告高が加害車を運転して時速五〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点から約三〇メートル手前の地点に差しかかつた際、交差点の左方から原告車を運転して進行してくる原告恵美子に気付いたが、同女は、後記のとおり、交差点手前で一時停止する義務のあるものであるから、同女がそうするものと思いそのまま進行し交差点から約一五メートル手前の地点まで接近したところ、同女が一時停止せず、且つ、被告車にも気付かずに交差点を横断しはじめたので急制動の措置をとつたが間に合わず衝突したものである。

原告恵美子は、本件交差点に進入するに際し、被告車の進行道路の幅員は約7.3メートル、原告車のそれは約3.3メートルであつて、被告車の進行道路の方が明らかに広い道路であるから一時停止義務を負うにもかかわらず、この義務を怠つたものであり、本件交通事故は、原告恵美子の右一時停止義務違反の過失も原因となつて発生したものであるから、被告上原、同高の原告らに対する損害賠償額の算定にあたり右過失を斟酌することを求める。過失割合は、原告恵美子の過失を控え目にみても、原告ら六割、右被告ら四割とするのが相当である。

2  被告上原、同高の責任範囲についての主張

原告恵美子が右下肢の切断をしなければならなくなつたのは、被告済生会神奈川県病院の担当医師の診療上の過失によるものであるから、被告上原、同高は、原告恵美子の右下肢切断による損害については責任を負わない、というべきである。

五  被告上原、同高の主張に対する原告らの認否<省略>

六  被告済生会の抗弁

仮に、原告恵美子の担当医師に何らかの診療上の過失があつたとしても、被告は当該担当医の選任および監督につき相当の注意をはらつているだけではなく、本件は相当の注意を為しても損害の発生を防ぎ得ない場合に該当するから、被告済生会は民法七一五条の責任を負わない。<以下、事実省略>

理由

一本件交通事故の発生

請求原因1項の各事実は、原告と被告上原、同高との間では争いがなく、原告と被告済生会との間では後記四の4の(一)冒頭掲記の各証拠によりこれを認めることができる。

二原告の受傷内容、診療経過及び後遺障害

<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができる(ただし、請求原因2項の(一)の事実は原告らと被告済生会との間において争いがない。)。

1  原告恵美子は、昭和四八年一〇月二二日午後四時頃、本件交通事故により請求原因2項の(一)記載の傷害を負つたが、被告車に衝突された際、その衝撃で別紙交通事故現場見取図記載1の地点まで跳ね飛ばされて道路端の溝に落ち、前記のように右両下腿骨の複雑骨折等の傷害を受けたが、とくに右下腿部の挫創はひどく、これは長さ約三〇センチメートル、深さ筋骨に達する不整形の傷口を有するものでこの挫創は傷の表面だけではなく傷の内部まで泥や土砂等により著しく汚染された。

2  原告恵美子は、救急車により、右同日午後四時二〇分頃、被告済生会神奈川県病院の緊急処置室まで運ばれ、同室においてすぐさま同病院の大岩医師の診察を受けたが、同女の創傷、特に同女の右下腿の挫創の程度がひどく、その汚染が著しかつたので、同医師は同病院の丸谷眞医師の応援を頼み、この両医師の診療を受けた。原告恵美子の血圧は最高一一〇、最低七〇、脈搏八八、ヘマトクリット二六でやや貧血状態であつたので、右両医師は輸血と点滴を開始する一方で、エックス線撮影により骨折部位を確認し、前記のとおりひどく汚染され、創縁が挫滅している右下腿挫創部位及び右両下腿骨骨折部位につき生理食塩水二五〇〇ミリリットルを用いてデブリドマン(デブリドマンとは、狭義では、メス、ピンセットなどを用いて異物や汚染され又は壊死した組織を除去することをいうが、広義では、この意味を含み、このこととともに、ブラシ等を用い生理食塩水等により創傷の周囲及び創面を清浄化すること、いわゆるブラッシングをも意味する。以下特に断らないかぎりこの言葉を広義で使う。前記デブリドマンも広義のものである。)を行ない、ドレーンを二ケ所に挿入したうえ直ちに創傷を縫合した。そして右下肢の鋼線牽引を行ない、また破傷風予防のための抗生物質や痛み止めの注射を打つなどし、同日午後六時三〇分、同原告はそのまま同病院に入院し、右輸血、右牽引を続け、右鎖骨骨折に対する絆創膏による固定等の処置をうけた。

3  その後、昭和四八年一〇月二九日に至るまで原告恵美子の右下肢の創傷部位につき右病院の担当医師は異常所見を認めず、同月二四日には、右病院担当医師は前記ドレーン二ケ所を抜去した。

4  前同月二九日、右担当医師が原告恵美子の右下肢創傷の縫合部位の抜糸を行なつたところ、右創傷より特異の強烈な悪臭があるなどしたため、担当医師はガスえそ感染と診断し、原告恵美子の生命に危険があるため同日午後、急遽原告幹郎の承諾を得え、原告恵美子の右大腿の切断手術を行なつた。

5  原告恵美子のその後の経過は一応順調で、昭和四九年一月二一日まで右病院に入院し、その後請求原因2項の(二)の(2)ないし(9)記載のとおり各病院に入通院した(ただし、東芝中央病院への通院実日数は八日であるので、そのように改める。)。なお、鉄道弘済会東京身体障害福祉センターへの入院は義足の製作と歩行訓練のためであり、片山整形外科病院への通院は、右肩の後遺障害の診断のためであり、東芝中央病院への通院は本件交通事故後の身体の総合検査のためであり、国立身体障害センターへの通院は義足製作のためのものであり、北里研究所付属病院及び日本医科大学第一病院への通院は、原告済生会神奈川県病院で行なつた右大腿切断部位が義足と適応しないため専門医に相談するためであり、横浜市大付属病院及び横浜船員保険病院への入通院は、義足に適応させるように右大腿の再切断手術をすることの準備と右手術のためのものであつた。

6  原告恵美子には、結局、請求原因2項の(三)記載のとおり(ただし、同記載(ロ)については、「右肩関節機能障害、すなわち、一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すものとして自賠等級一二級六号に該当。」と改める。)併合三級の後遺障害(なお、自覚症状として、右肩、右上肢の鈍痛、疲労感、右下肢の幻覚、しびれ感が残り、また他覚症状として、右鎖骨は、左鎖骨に比して1.6センチメートル短縮された後遺症も残つた。)が残存することとなつた。

以上のとおり認めることができ<る。>

また、右に説示、認定した本件交通事故による原告恵美子の受傷の状況、とくに右両下腿骨複雑骨折、右下腿の挫創の部位、程度、その泥等による汚染の程度、内容、右創傷の治療経過、同原告のガスえそ発症の状況等からすると、同原告が右事故により受傷し、事故現場においてその右下腿の挫創部分が泥等によつて内部まで汚染された際、右挫創部分にガスえそ菌が侵入したことを推認することができ<る。>

三責任原因

1  被告上原

請求原因3項の(一)の事実は、原告と被告上原との間に争いがない。

したがつて、被告上原は本件交通事故の結果につき自賠法三条本文による責任がある。

2  被告高

請求原因3項の(二)の(1)の事実は、原告と被告高との間に争いがない。

したがつて、被告高は、本件交通事故の結果につき自賠法三条本文による責任がある。

3  被告済生会

<証拠>を総合すると以下の事実が認められる。

(1)  ガスえそとはガス発生を伴う感染症に対する総称であり、その大部分をしめるクロストリディウム菌は世界中の土壌中にひろく存在し、土砂が付着した際の土壤感染がガスえそ発生原因の大部分をしめている。

(2)  ガスえその病原菌は組織中で主として嫌気性に発育し、毒素を産出しこれが局所に作用して、組織の壊死およびガスの発生をみる。さらにその毒素および組織物は血液中に吸収され全身的症状を惹起し、やがて死に至る。破傷風と異なり症状の進行がきわめて速やかなこともその特徴である。

(3)  従つて、ガスえそについては発症後の治療よりも予防の方がより重要であり、そのためには受傷直後の創傷処理において、創傷部位をよく洗滌して清浄化し、また血行がなく壊死におちいつた組織や汚染された組織を十分に除去すること(デブリドマン)が肝要であり、全身状態、創傷の態様、汚染の程度等から十分なデブリドマンが困難な場合でも、創傷を開放性に処置し、創面の清浄化される時期をみはからつて更にデブリドマンを行つてから、縫合する配慮が必要である。

(4)  本件原告恵美子の右両下腿骨骨折のように土壤等によりひどく汚染された複雑骨折の場合はガスえその病原菌が非常に発症しやすい条件を備えている。

しかしながら、右のように条件の備つた場合でも、受傷後六時間以内(この時間は、創傷治癒のためのいわゆるゴールデン、タイムといわれている)に創傷部位に徹底したデブリドマンを行えば、患者をガスえそ等の感染症から免れさせることができ、右の徹底したデブリドマンが困難な場合でも、前記のように創傷を開放性に処置すればガスえその発症を避けさせることができる。

(5)  右の(1)ないし(4)のことは通常の医師ならば当然に予見し、又は予見しうべかりし事項に属する。

以上のとおり認めることができ<る。>

右認定のガスえその発症、予防の特徴に、前記二認定の被告済生会神奈川県病院の担当医師の原告恵美子の右両下腿骨複雑骨折、右下腿挫創に対する診療経過に関する事実関係を総合すると、本件においては、原告恵美子の右両下腿骨複雑骨折、右下腿挫創の程度がひどく、その部位が著しく汚染されガスえその発症の危険が極めて高い状態にあつたこと、このことは通常の医師が容易に予見し、又は予見しうべかりしものであつたから、初期診療の担当医師としては急激にして重大な結果をもたらすガスえその発症を防止することを最重要事項の一つとして念頭に置き、これに留意すべきであつて、そのためには、まず創傷部位の徹底したデブリドマンを行なうべきであり、実施したデブリドマンの徹底さに自信が持てない場合には少なくとも同原告の右創傷を開放性に処置すべき医学上の注意義務があり、この義務を尽せば同原告をガスえその発症から免れさせることができたと考えられるのに、前記丸谷、大岩の両医師は同原告にガスえそが発症する割合は低いものと軽信し、右注意義務を怠り、徹底したデブリドマンを行わず、しかも、右創傷部の二ヶ所にドレーンを挿入(このドレーンも昭和四八年一〇月二四日には早くも抜去されている)して直ちに右創傷部を縫合し右創傷を開放性に処置しなかつた初期診療の過失(以下、本件医療過誤という。)により、原告恵美子にガスえそを発症させ、その生命を危険にさらし、その右大腿切断を余儀なくさせたといわざるをえない。

証人丸谷眞の証言中には同証人らはデブリドマンのために、三、四〇分もの時間を費しているから医師として落度はない旨の証言部分があるが、前記認定の原告恵美子の右下腿の創傷の態様、程度、その汚染の程度、同原告のガスえそ感染の経緯に照らして、右証言部分はとうてい採用し難く、他に前記判断を左右すべき資料はない。

被告済生会が原告恵美子の初期診療を担当した丸谷、大岩医師の使用者であることは、被告済生会において明らかに争わないから、同被告においてこれを自白したものとみなす。また、右担当医師の前記過失行為がその業務執行中のものであることは、前認定の事実から明らかである。

被告済生会の抗弁事実は、これを認めるに足りる証拠がないから、右抗弁は採用できない。

したがつて、被告済生会は、本件医療過誤の結果につき民法七一五条による責任がある。

4  被告らの責任の相互関係について

すでに認定説示したとおり、被告上原、同高は、本件交通事故から生じた原告らの損害につきそれぞれ自賠法三条本文の責任があり(なお、これらは不真正連帯の関係にある。)、被告済生会は、本件医療過誤から生じた原告ら損害につき民法七一五条の責任があることになる。

そして、本件交通事故を発生させた被告高の過失と本件医療過誤を発生させた被告済生会の担当医師丸谷、大岩の過失とにつき、これらの過失ある行為の点に着目するとき、右各過失行為は、もとより相互に何ら意思連絡等のないものであり、時間的、場所的にも隔りがあり、行為類型の点においても別異のものであることが明らかである。

しかしながら、原告らの蒙つた損害の点に着目すると、本件交通事故による損害と、本件医療過誤による損害とは、その大部分において重り合い、混り合つているから、これらの損害を本件交通事故による損害と本件医療過誤による損害とに明確に分別し、その損害額を各個、別々に算定することは困難であり、結局、これは各原告にとつて渾然一体となつた一個の損害とみるのが相当である。そしてこの一個の損害と被告高の過失行為及び被告済生会の大岩、丸谷両医師の過失行為との間には、いずれも事実的因果関係を首肯しうる。

右のとおり、被告高の本件不法行為と右両医師の不法行為とは、損害が同一である点において、民法七一九条にいう共同不法行為の一つとみて差支えなく、したがつて、右損害は、原則として被告らにおいて連帯して賠償すべき関係にあるというべきである。

しかしながら、本件交通事故と本件医療過誤とがそれぞれ別異の過失行為によつて発生したものであることはさきに検討したとおりであるから、まず、各原告につき、前記一個の損害の総額を認定したうえ、右損害額につき、本件交通事故における加害者の過失行為が寄与した分と本件医療過誤における加害者の過失行為が寄与した分とを割合的に判定、評価することが可能であれば、損害賠償の公平な分担の見地からみて、右の割合(以下、寄与率という。)を考慮して、各被告らの損害賠償責任の減責、各負担部分の評定がなされるべきである。本件におけるこの寄与率については後記説示のとおりである。

四原告らの損害

1  原告恵美子の総損害

金三八二〇万二二二八円

そこで、本件交通事故及び本件医療過誤(以下、まとめて本件事故という。)によつて原告恵美子に生じた総損害(後記の寄与率、過失相殺、填補、弁護士費用を考慮する以前の全損害)を算定するに、項目別の損害は次の(一)ないし(五)のとおりであり、この合計は金三八二〇万二二二八円となる。

(一)  入通院関係費用

合計金一二二万四二三六円

(二)  義足代

合計金二一四万三四七七円

<証拠>を総合すれば、

(1) 原告恵美子は、前記二認定の右大腿切断の後遺障害により終生右足の義足を必要とすることになつたこと、

(2) そのため原告恵美子は、これまでに、治療用仮義足以外に、昭和四九年四月、同年六月、昭和五〇年一月、同年八月、昭和五二年七月の五回にわたり計五具の義足の製作を余儀なくされたが、右義足一具の代金は金二五万七〇三〇円を下らないこと、

(3) 義足一具の耐用年数は、各個人の切断端の病理的、生理的変化により異なるので医学的に一概に断定することはできないものであるが、原告恵美子の年齢等も考慮し、原告恵美子の右五つ目以降の義足一具の耐用年数を五年と予想しても不合理とはいえないこと、

(4) 今後の義足の製作費については、五つ目までのと同様の義足を製作するものとして、一具の義足代金は金三五万二一二〇円を下らないと予想されること、

がそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告恵美子の義足代の損害は次のとおりとなる。

(イ) 過去の義足代

金一二八万五一五〇円

(計算式)257,030×5=1,285,150

(ロ) 将来の義足代

金八五万八三二七円

当裁判所に顕著な昭和五三年の簡易生命表によれば、四四歳(昭和五三年における原告恵美子の年齢)の女子の平均余命は36.15年であるから、前認定の義足の耐用年数に照らせば、原告恵美子は、その生涯に、右五つ目以後少なくともなお七具の義足の製作を余儀なくされるものと推定することができる。

そこで、右七具の義足代をライプニッツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して、本件事故時(昭和四八年)の現価に引き直して算出すると、次の計算式のとおり金八五万八三二七円(一円未満切捨て)となる。

(三)  住居改造費 金八〇万円

(四)  後遺障害による逸失利益

金二四二三万四五一五円

<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。すなわち、

(1) 原告恵美子は、昭和九年八月二一日生で、本件交通事故当時満三九歳の健康な家庭の主婦であり、家族構成は、会社員である夫原告幹郎当時四〇歳、長女みどり当時満一一歳、二女祥子当時八歳、三女朋子当時満六歳であつた。

(2) 原告恵美子は、当時、家庭の主婦として家事に従事するほか、家計を助けるために昭和四八年七月頃から化粧品会社「エイボンアライドプロダクツインコーポレイテッド」の化粧品外交販売員となり、家事の合間に、自転車を利用して訪問販売したり、電話を利用して自宅販売するなどしていた。右化粧品販売員の給与は、自己の販売総額の一定割合を自己の収入とする歩合制の方式をとつていたが、右化粧品販売を始めるために、当初、販売客の試供用化粧品を自己の負担でまとめて購入せざるを得なかつたことや、右化粧品販売を始めて日が浅く固定客が少なかつたことなどから、本件交通事故当時には、原告恵美子は未だ確実な収益を上げるまでには至つていなかつた。右化粧品販売員の仕事は将来固定客が増えれば、ある程度安定した収益を上げ得るものではあつた。

(3) 原告恵美子は、前認定の後遺障害のため、会社勤めをしたり、前記のような化粧品の外交販売員として働くことが不可能になつたほか、一人で買物ができなくなる等家事能力もそのほとんどを失い、前記夫や子供達の協力、援助を得ながら、身体障害者として不自由な生活を送つている。

以上のとおり認めることができ<る。>

ところで、後遺障害によりその労働能力を全部又は一部喪失した者は、喪失した労働能力に対応する損害を蒙つたものと認めるのが相当であつて、その損害は、一般的には、労働能力喪失状態の存続する就労可能期間内にその者が後遺障害を蒙らなければ得ることのできるはずであつた全収益に、労働能力喪失割合を乗じて算定した逸失利益の額をもつて評価するのが相当である。

原告恵美子は、本件交通事故当時、前認定のとおり家庭の主婦として家事に従事するとともに、家計を助けるために化粧品販売の仕事に従事し始めた直後であつたことが認められるところ、原告恵美子の右家事労働ないし化粧品販売による就労可能期間内における全収益を厳格に算定することは困難であるので、現在の社会情勢等にかんがみ、原告恵美子は平均的就労可能年齢である満六七歳までの二八年間は就労可能であつて、その間少くとも、女子雇用労働者の平均的賃金に相当する収益を挙げることができたものと推定するのが適当である。

そして、原告恵美子が、自賠等級三級(併合)に該当する後遺障害を蒙つたことは前認定のとおりであり、右後遺障害の部位、内容、程度に原告恵美子の年齢、本件事故前後における就労状態その他諸般の事情を考慮すると、原告恵美子は右後遺障害により、右就労可能期間二八年間を通じその労働能力の九割五分を喪失したものと認めるのが相当である。

そこで、原告恵美子の右逸失利益を、本件口頭弁論終結時における最新の昭和五四年「賃金センサス」第一巻第一表女子労働者の全産業、全規模、全学歴、全年齢平均年間給与額金一七一万二三〇〇円を基礎として、ライプニッツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除し、本件事故時(当時原告恵美子は三九歳)の現価に引き直して算出すると次の計算式のとおり金二四二三万四五一五円(一円未満切捨て)となる。

(五)  慰藉料 合計金九八〇万円

(1) 入通院(傷害)慰藉料分

金一八〇万円

(2) 後遺障害慰藉料分

金八〇〇万円

2  原告幹郎の損害

金二〇〇万円

慰藉料 金二〇〇万円

前認定の原告恵美子の傷害、入通院、後遺障害についての諸事実、<証拠>によれば、原告恵美子の夫である原告幹郎は、本件事故により愛妻が身体障害者等級表による級別三級の第二種身体障害者となり、その生命を害された場合に比肩すべき精神的苦痛を受けたことが明らかであるから、民法七〇九条、七一〇条により固有の慰藉料請求権を取得したと解すべきところ、本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、その慰藉料の額を金二〇〇万円と定めるのが相当である。

3 寄与率

本件交通事故における被告高(したがつて被告上原)の寄与率は右1、2項認定の原告らの損害全体の五割、本件医療過誤における担当医師丸谷、大岩のそれは同八割。

前認定の原告恵美子の当初の傷害の部位、内容程度、その後の診療経過、後遺障害の部位、内容、程度、被告済生会の右担当医師の過失行為の態様、程度、後記認定の被告高の過失行為の程度、態様、右認定の原告らの損害の内容、額に関する各点、及びこれらから明らかな本件においてガスえそが発症しなくとも原告らが蒙つたであろう損害については本件担当医師丸谷、大岩が全く寄与していないと考えられる点、右担当医師の右過失行為に基づく原告恵美子の損害の拡大部分については被告高の寄与率が少ない(もとより零ではない)と考えられる点、以上の諸点及びその特徴を考量、評価すれば、本件においては被告高及び右担当医師の前記原告らの損害に対する寄与率を判定、評価することが可能であると考えられるところ、右の諸点その他諸般の事情を勘案し、本件交通事故における被告高の寄与率は右原告らの損害全体の五割、本件医療過誤における担当医師の寄与率は同八割(したがつて右原告らの損害の三割については被告高及び右担当医師の双方の過失が共同して寄与している。)と評定するのが相当である。

4  過失相殺

(一)  本件交通事故発生についての原告恵美子の過失と被告高の過失

前記理由欄一の各事実に<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。すなわち、

(1) 本件交通事故発生場所である本件交差点付近の道路状況は別紙交通事故現場見取図(以下、見取図という。)記載のとおりである。

本件交差点は、五又路の変型交差点で信号機は設置されていない。見取図の赤門方面から二ツ池方面に通じる道路は、平坦で路面はアスファルト舗装され、本件交差点附近の同道路は、本件交通事故発生当時は乾燥しており、最高速度毎時三〇キロメートルの速度制限と追越禁止の交通規制がなされていた。

右道路の赤門方面から二ツ池方面への見通し状況は、前方と右方は良好であつたが、左方はトタン塀が存在するため良くなかつた。

また、見取図の下方から本件交差点に通じる道路は、未舗装の農道で交差点の手前右側に一時停止標識が設置されていた。

(2) 被告高は、昭和四八年一〇月二二日午後四時頃、被告車を運転して、前記赤門方面から二ツ池方面に通じる道路を二ツ池方面に向け時速約六〇キロメートルで進行中、見取図記載地点付近において、左方道路を原告車(自転車)を運転して本件交差点に向かつて普通の速度で進行してくる原告恵美子を見取図記載地点付近に発見したが、原告恵美子が本件交差点手前で一時停止するものと軽信し、原告恵美子の動静に十分な注意を払うことなくそのままの速度で進行したところ、見取図記載地点付近に至り、原告車を運転して見取図記載地点付近まで進行してきている原告恵美子に気づき、危険を感じてあわてて急制動の措置を講じたが間に合わず、見取図記載地点において、被告車の前部を原告車に衝突させ、その衝撃で原告恵美子及び原告車をそれぞれ見取図記載1及び2地点まではねとばし、被告車は見取図記載地点に停止した。

(3) 原告恵美子は、前同日時頃、原告車を運転し、普通の自転車の速度で、見取図の下方から本件交差点に通じる道路を本件交差点に向けて進行し、本件交差点に進入するに際し、本件交差点手前には前記のとおり一時停止標識が設置されているにもかかわらず、一時停止することもなく、見取図のとおり、自己の通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いのであるから、少くとも徐行すべきであるのに、これもせず、また、左右の安全を十分に確認することなく(特に、原告恵美子にとつて、交差点の右側の見とおしはよく、被告車を発見することにつき困難はなかつた。)、そのままの速度で漫然と本件交差点に進入したところ、見取図記載地点において、右方から進行してきた被告車に前記のとおり衝突され、その衝撃で前記のとおり跳ね飛ばされて、前認定のとおり受傷した。

以上のとおり認められ<る。>

右認定の事実によれば、被告高には、本件交通事故発生場所付近道路を被告車を運転して進行するに際し、左方道路上に発見した原告車の動静注視を怠り、かつ制限速度を遵守しなかつた点(この点が本件交通事故の最も大きな原因と考えられる)に過失があるが、他方、原告恵美子にも、原告車を運転して本件交差点に進入するに際し、一時停止、徐行、左右の安全確認を怠つた点に過失があり、本件交通事故は、被告高の右過失のみならず、原告恵美子の右過失も原因となつて発生したものということができる。

そして、本件交通事故発生についての原告恵美子の右過失と被告高の右過失との過失割合につき、それらの内容、程度、態様等を双方の運転車両の種類、その危険度等をも斟酌しつつ比較考量すると、両者の過失割合は、原告恵美子の過失四割、被告高の過失六割とみるのが相当である。

そして、前記原告恵美子及び原告幹郎(原告幹郎本人の供述によれば、同原告は原告恵美子の夫として同女と身分上、生活上一体をなす関係にあると認められる。)の各損害につき、被告高、被告上原が原告らに対し賠償すべき損害負担部分を算出するにあたつては、本件交通事故発生についての原告恵美子の前記過失を斟酌するのが相当であるから、被告高の前認定の寄与率(総損害の五割)による部分(これを寄与分と呼ぶ。以下同じ)につき、右認定の過失割合にしたがつて過失相殺を行なうべく、またこの場合、公平の見地からして、まず被告高の右寄与分のうちの同被告の単独寄与部分(総損害の二割)につきまず過失相殺を行なうべく、なお、残余があれば本件担当医師との右共同寄与分(総損害の三割)につき過失相殺を行なうべきであり、このようにして過失相殺を行うとき、結局、被告高は総損害の三割につきこれを被告済生会と連帯して負担すべき関係になる。

したがつて、被告高、同上原が被告済生会と連帯して支払うべき損害負担額(後記損害の填補、弁護士費用に関する計算前のもの)は、原告恵美子に対し前記総損害三八二〇万二二二八円の三割に当る金一一四六万〇六六八円(一円未満切捨て)、原告幹郎に対し前記慰藉料金二〇〇万円の三割に当る金六〇万円となる。

(二)  本件医療過誤発生についての原告恵美子の過失と担当医師丸谷、大岩の過失

前記認定説示からすると、被告済生会の担当医師丸谷、大岩の診療上の過失に対する関係では原告恵美子の過失は見当らない。

したがつて、前記原告らの損害につき被告済生会が原告らに対し賠償すべき損害負担部分を算出するにつき、同被告との関係では過失相殺をする余地がなく、被告済生会が支払うべき損害負担額(後記損害の填補、弁護士費用に関する計算前のもの)は、前認定の寄与率により、原告恵美子に対し前記総損害の八割に当る金三〇五六万一七八二円(一円未満切捨て)、原告幹郎に対し前記金二〇〇万円の損害の八割に当る金一六〇万円となる(前記のとおり、右各金員のうち、原告恵美子に対する関係で金一一四六万〇六六八円とこれに対する遅延損害金及び原告幹郎に対する関係で金六〇万円とこれに対する遅延損害金については被告高及び被告上原と連帯して負担すべき関係になる。)。

5  損害の填補

合計金五二九万四三三一円

原告恵美子がその損害につき、被告高から金八七万四三三一円、自賠責保険から保険金四四二万円の各支払を受けたことは、原告恵美子が請求原因5項において自認するところである。

ところで、右金八七万四三三一円については、これによつて被告高、同上原関係負担部分(この部分は、また、前記のとおり、被告済生会の連帯負担部分に当る)につき損害の填補がなされたとみるのが相当である。

右の自賠責保険金四四二万円については、前述した本件損害の性質(とくに渾然一体性)とその内容(とくに、別異の過失に基づく点)を考慮し、かつ、自賠責保険制度の本来の趣旨に鑑み、右保険金によつて、まず、被告高、同上原関係負担部分につき損害の填補がされたと考え、ついで残余があれば被告済生会の単独負担部分(総損害の五割)につき損害の填補が及ぶとみるのが損害賠償の公平な分担の見地からみて相当である。

右のような方法により損害の填補を行うとき、原告恵美子に対する損害賠償として被告らの負担すべき金額は、後記の弁護士費用を除いて、被告上原、同高は金六一六万六三三七円、被告済生会は金二五二六万七四五一円(但し、この内金六一六万六三三七円とこれの遅延損害金については被告上原、同高と連帯負担の関係にある。)となる。

6  弁護士費用合計金二五〇万円

(被告上原、同高につき金五〇万円)

(被告済生会につき金二五〇万円)

原告恵美子が、本件訴訟追行を原告ら訴訟代理人らに委任したことは訴訟上明らかであり、本件事案の内容、審理の経過、請求認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある原告恵美子の損害として被告上原、同高に負担させるべき弁護士費用の額は金五〇万円、被告済生会に負担させるべき弁護士費用の額は金二五〇万円(但し、この内金五〇万円については、被告上原、同高と連帯負担の関係にある。)と定めるのが相当である。

五結論

以上の次第で、被告上原、同高は連帯して、(かつ、被告済生会とも連帯して)原告恵美子に対し、金六六六万六三三七円及びこれに対する遅くとも本件交通事故及び本件医療事故の日の後である昭和四九年一月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告幹郎に対し、金六〇万円及びこれに対する前同日から支払済まで前同様年五分の割合による遅延損害金を、被告済生会は、原告恵美子に対し、金二七七六万七四五一円及びこれに対する前同日から支払済まで前同様年五分の割合による遅延損害金を(これらの内金六六六万六三三七円とこれに対する遅延損害金については被告上原、同高と連帯して)、原告幹郎に対し、金一六〇万円及びこれに対する前同日から前同様年五分の割合による遅延損害金を(これらの内金六〇万円とこれに対する遅延損害金については、被告上原、同高と連帯して)、それぞれ支払う義務があることになり、原告らの被告らに対する本訴請求は右の限度で理由があるからこれをこの限度において認容し、原告らの被告らに対するその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(海老塚和衛 菅原敏彦 氣賀澤耕一)

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